青い夏の、わすれもの。
「あのさぁ、ほんと邪魔だから」

「澪のこと教えてくれたら帰る。だから、お願い。教えて」


そんなつぶらな瞳でお願いされたらもうダメだよ。

あたしの良心がぐらりと揺らぐ。

なんで、こういう頼み方するかなぁ。

断れないじゃん。

あたしは、はぁっとわざとらしくため息をついてから、言った。


「澪はなんともなかったよ。あ、そうそう。魁が布団蹴っ飛ばして寝込んでる写真見せたら笑ってたよ。お陰で元気出たって言ってた。良かったじゃん」


あたしの言葉にみるみる顔を綻ばせる魁。

分かりやすすぎてため息さえ出ない。


「お、そうか!そうか、そうか!なら、良かった!サンキュー爽」


魁はそれだけ言うと、ほうきを2、3回振り回してから教室を後にした。


「なんなの、もぉ。...バ魁っ!」


あたしはシャーペンをノートに振り下ろした。

結果は言わずもがな。

シャー芯が折れてどこかへ吹っ飛んでいった。


ほんと、なんも分かってない。

1番長く一緒にいるのに、分かろうともしてくれない。

あたしは魁のこと色々知りたくて、魁のお母さんから好きな料理を聞き出して作ってみたり、野球部の連中との会話から魁の好みの髪型はどうとか、どういう仕草にキュンとするとか、とにかくリサーチしまくってるというのに、魁はさっぱりだ。

ほんと、ただの幼なじみ。

それだけ。

はぁ...つまんないの。
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