青い夏の、わすれもの。
その言葉が全てだと思った。

友人がいない私に対して、踏み込む勇気を与えてくれる言葉だった。

だけど、それは同時に孤独を支えてくれていた律くんから私へ、私のこの気持ちにピリオドを打つように諭す言葉にも思えた。

彼に恋する私は、いくら孤独でも気にならなかった。

生徒会の仕事も勉強もいつも一生懸命誠心誠意取り組んでいたから、孤独だなんて感じなかった。

でも、やはり私は孤独だったのだと思う。

自分の好きなものを好きと言えず、亀のように殻に籠って生きてきてしまった。

そんな私が初めて恋をしたのは、あの凛としていて真っ直ぐな音を奏でる大楽律くんだった。

彼の存在が私の孤独感を和らげてくれていた。

でも、それではいけないと彼は暗に伝えてきた。

山本さんや永瀬さんと親しくなりたいという、私の心に芽生えた気持ちを律くんは見抜いたのかもしれない。

なんて、私がどんな仮説を立てても答えは彼の中にしかない。

けど、彼の言葉や彼の行動から感じて、私が私自身の行動を選択することは出来る。

きっとそれはここから次へと進むために必要な選択だ。

私は...選ぶ。

選ぶのだ。


「...律くん」


私の声はきちんと届いているだろうか。

目を伏せているから分からない。

顔なんて上げられないからこのまま話すしかない。


「ありがとう。それと...」


さよなら。


私は駆け出した。

人混みを掻き分けて出口を目指した。

ここではないどこかへ行きたかった。


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