青い夏の、わすれもの。
なんてことを悩みながら、とろとろと歩き続け、音楽準備室に辿り着いた。

もう後輩たちは練習を始めていたから、私は急いで譜面台を立てた。

テストが終わったから今日から本格的に定演の練習が始まる。

部活が休みの間も譜面を持ち帰りちょこちょこと譜読みをしていたから、すぐ練習に移れる。

と、思っていたんだけど、わたしはその譜面を教室に忘れたことに気づいてしまった。


「もぉ、最悪...」


わたしは大急ぎで階段を駆け下り、教室に向かった。

すると、そこには見慣れない2ショットがあった。

爽とさつまくん、だった。


「あれ?さつまくん、まだいたんだ」


てっきりもう練習に行っているのかとばかり思っていたから、こんなところで話し込んでいるのに驚いてしまった。


「爽と話してたんだ。珍しいね」


わたしがそう言うと、さつまくんは伏せ目がちに答えた。


「まぁ。永瀬さんが数学教えてほしいって言うから」


それを聞いてわたしは妙に納得した。

通りで数学の質問がなかったわけか。

爽、さつまくんに聞いてたんだ。

さすが、人を上手く利用出来る爽である。


「確かにさつまくん数学得意だもんね。爽のことよろしくね」

「あぁ」

「爽理解するのに時間はかかるけど、理解したらメキメキと頭角を表すタイプだから、基礎はしっかりよろしくお願いします」

「了解。さすが親友だな」

「まぁね」


さつまくんに爽の指導をお願いし、今度は爽に視線を投げ掛けた。


「爽、さつまくんに失礼のないように」

「あっ、は、はいっ」


なぜか敬語を使う爽に疑問を感じながらも、急いでいたわたしは机の中に置き忘れていた譜面を取るとさっと教室から出た。

足を引っ張らないように練習頑張らなきゃ。

わたしの頭の中にあるのはそれだけだった。

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