青い夏の、わすれもの。
その日の帰り道のことだった。

私が楽器ケースを持ってふらつきながら歩いていると、ひょいっと脇から盗まれた。


「えっ?...あ、さつまくん!」

「またお持ち帰り?」

「なんかその言い方、悪意を感じる。楽器をお持ち帰りするのは何にも悪いことじゃないでしょ?」

「まあな」


さつまくんはわたしのケースを持ったままバス停に向かって行く。

わたしは楽器ケースを挟んでさつまくんの隣を歩いた。

数十秒の沈黙の後、わたしは爽のことを思い出し、さつまくんに尋ねた。


「そういえば、爽大丈夫だった?」

「うん。全然問題なし」

「そっか。なら、良かった」


爽は偉いなぁ。

専門に進むのが決まっているというのに、まだ勉強してるなんて、向上心の塊ではないか。

野球部のマネージャーをこなせるくらいだから、もともと努力家でがんばり屋なのは知っていた。

だけど、今はそれ以上に尊敬している。

爽は何か目的があって頑張ってるのかなぁ。

だとしたら、すごい。

わたしも見習わなきゃ。

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