青い夏の、わすれもの。
「風くんのこと、なんだけど...」

「うん」

「わたし、風くんのことは諦めようと思う」

「えっ...」


――カタン...。


爽の体に電流が走ったのだろう。

爽はアイライナーを落としてしまった。


「さ、爽。大丈夫?ごめんね。急に変なこと言っちゃって。でも、本気なの」


わたしは爽のアイライナーを拾い、爽の目の前に差し出した。

その手は小刻みに震えていた。

言葉にしたら本当になる。

古から伝わる言霊理論を思いだし、突如恐怖に襲われた。

言ってしまった...。

つまり、終わり、なんだ。

遂に...終わるんだ。


全身が凍りついたように動かなくなる。

そんな危険状態のわたしを見て、いても立ってもいられなったのか、姉御肌の爽は逞しい両腕でわたしを思い切り抱き締めた。

その腕から伝わる熱に全身の細胞が震えていた。

わたしも爽と同じ気持ちを共有しなきゃと思った。

それがわたしの役目だと思った。

だって、爽をこんなにも苦しめて嘘までつかせてしまったのは、わたしのせいだと確信していたから。

わたしは爽の腕の中でぼそりと呟いた。


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