青い夏の、わすれもの。
わたしのその言葉に爽はぽかんと口を開けた。

まさかわたしにバレるとは思っていなかったのだと思う。

そうだね。

爽は演技が上手いから全然気づかなかったよ。

でも、知らなきゃならないって、気づかせてくれた人がいる。


「もしかして...大楽からなんか聞いた?」


爽の口からさつまくんの名前が出てきた。

2人はわたしの知らないところで情報を共有していたのかもしれない。

全然気がつかなかったよ。

でも、今ちゃんと知ることが出来て良かった。

これで、わたしは自分の気持ちを正直に話すことが出来る。


「ううん。違う。わたしからさつまくんに色々相談したの。話聞いてもらってるうちに自分の心が見えてきて、自分の周りで起こってることも見えるようになったの」

「そっ、か...」


爽はわたしの頭を撫でてくれた。

その指先に塗ったネイルの色は海を照らして沈み行く夕陽のようなオレンジだった。

それを見て魁くんは誉めてくれたかな?

不器用でも背伸びして、憧れの自分像に向かい手を伸ばす爽に魁くんは気づいているかな?

長年片想いをしている爽を神様は救ってくれるかな?


親友の好きな人に告白されてしまった、

親友に自分の好きな人が告白してしまった。

こんな残酷でドラマチックな恋は誰も望んでいなかった。


自分の好きな人が自分を好きになって、好きだと言ってくれる。

こんな単純で世の中にありふれた事象が、なぜわたしたちには舞い降りなかったのだろう。

ただ辛くて苦しい事実だけが、夜空に瞬く星の数ほど増えていく。

瞳の裏が熱くなり、また涙腺がぷるぷると震える。

これ以上泣いたら爽が泣けないと思って我慢しようとしたけど、耐えられなかった。

爽の目からもわたしの目からも次々と雫がこぼれ落ちた。


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