青い夏の、わすれもの。
澪たちが演奏する会場には予定よりも20分も早く着いた。

でも、用意されていたパイプイスは全部埋まっていて、その回りにも人が大勢いた。


「爽、はぐれんなよ」

「それはこっちのセリフ」


なんて言い合いながら移動してるから、言葉が途切れたらはぐれたのだとすぐに分かる。

あたしにはまだ魁の声が聞こえるし、視界の右端にちゃんとその存在を確認出来るから大丈夫。

あたしたちはステージに1歩でも近付こうと人混みを掻き分けて進んだ。

さすがにちびっ子たちの邪魔は出来ないから、彼らの後ろを陣地とした。

"スイカの種数えたことあるか"とか、

"種を植えたらほんとにスイカがなった"とか、

どーでもいいトークを繰り広げているうちに時間になった。

司会の地元テレビ局のアナウンサーが喋りだす。


「では、皆様お待たせ致しました。ここからは地元吹奏楽部のステージです。花火大会の前にこの空に彩りを添えてくださるのは、熱海中央高校吹奏楽部の皆さんです!」


ってか、テレビで見たことある人が目の前にいるってのに、皆冷静過ぎない?

あたしの胸、めっちゃバクバク言ってるんだけど。

1人で興奮しているみたいだ。

そういうところが幼稚臭いのかな?

無邪気な女子なんて言って可愛がってくれる男子はいない。

もちろん、隣のこの方も。

あたしは心の中でため息をついた。

夜空に溶けていけばいい。

それが星になればなおさらいい。

そうすれば願い事が出来るから。

そう、思った。


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