青い夏の、わすれもの。
「あ、そう言えば、2人に言わなきゃならないことがあるの」


母が思い出したように突如口を開いた。


「アメリカで働いてる地元の友人が、14日からの5日間だけ出張で帰国することになってねぇ。
それでその子とあと他に数人で集まって15日に女子会することになっちゃったから花火大会に行けなくなったの。
だから、今年は2人で行ってくれない?ほんと、急でごめんねぇ」

「じゃあ、今年はおれも行かないことにするよ。華もそれでいいか?」

「あ、うん。大丈夫」


その一言で私の選択肢は1つに絞られた。

父の目を欺いて朝吹くんと花火大会に行く。

それで決まりだ。

母に予定が入ってしまったことは残念だけど、少しばかり嬉しくもあった。

17年の人生の中でようやく家族以外の人と花火大会に行くことが出来るのだ。

私は胸の高鳴りを押さえながら自室に戻った。

戻るや否や小さくガッツポーズをし、朝吹くんとのトーク画面に返事を送った。

すぐに既読がつき、次々とやり取りを交わした。


"15日16時に日向ヶ浜駅集合でいい?"

私はOKのスタンプを押した。

すると、0.1秒後に"よろしく"のスタンプが送られてきた。

私はそのスタンプをじっと見つめた。

この胸の高鳴りが彼由来なのか何なのかは今はまだ分からない。

けど、15日が来れば、

一緒に同じ空間と時間と景色を共有すれば、

きっと答えは出せる。

決戦は15日。

私はカレンダーに大きな花丸を描いた。

どうか、夜空にうち上がる花火が私の運命の行く末を明るく照らしてくれますように。

そう、祈った。

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