青い夏の、わすれもの。
ガラス細工の見学を終えると、特設ステージから何やら愉快な音楽が聞こえてきた。

パーーンと胸のど真ん中に刺さる真っ直ぐで凛々しい音を私の耳は忘れていなかった。


「吹部が演奏してるみたいだね。観に行く?」

「ううん。大丈夫。それより金魚すくいをやりたいかな。私下手くそでいつもすぐにポイをダメにしちゃうから、今年こそは頑張って掬いたい」

「了解。じゃあ、金魚すくいのお店まで行こうか」


私は吹部のステージに背を向けた。

徐々に音楽が離れていく。

小さくなっていく。

でも、それでいいんだ。

それが正解なんだ。

私は名残惜しく過去を振り返ったりしない。

前だけを向いて歩いて行くと決めたから。

今の私にはもうその音は要らない。

欲しいのは私の波長に合わせてくれる音だけ。

だから...さよなら、だ。

さよなら、なんだ。


私は下駄を履いているとは感じさせないほどに早足で出店通りを闊歩した。

そんな私を見ても朝吹くんは微笑むだけで何も言ってこなかった。

無言でも伝わる心の距離感に、私の胸の中で風鈴のような優しい音が鳴り響いた。



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