青い夏の、わすれもの。
「はぁはぁはぁ...間に合ったぁ...」


朝吹くんが息を切らして戻って来たのは花火が打ち上がる3分前のことだった。


「やっぱり1発目は深月さんと見たかったから、急いで帰ってきた。

でも、澪ちゃんが無理やり笑って走り出したのに、おれ...追いかけなかった。

澪ちゃんの気持ちに答えられない上に優しい言葉の1つもかけられなかった...。

澪ちゃんに申し訳ないことしちゃったな...」

「...そんなことない」


私は無意識のうちに胸に溜まった感情を言葉にしていた。


「だって、それが朝吹くんの気持ちでしょう?」

「深月さんどうしたの?なんかいつもと違う気が...」

「それは...朝吹くんのせいだよ」

「えっ?」


心当たりがないと言いたげなキョトンとした彼の顔を私はじっと見つめた。

言うなら今だ。

今しかない。

腕時計をちらりと確認すると、時刻は19時29分になっていた。

この声がかき消される前に、

伝える。


「私が私じゃないのは、朝吹くんのせい。だから、責任はきちんと取ってもらいます」

「いや、だから、何言ってるかさっぱり...」

「なら、ストレートに言う」


――ひゅ~っ!


光の球が星を宿した空へと溶け込んでいく。

これはきっと希望の種。

この種から芽吹く花はきっとこの世の何もかもを照らしてくれる。

私はその花に願いを込め、

この想いを今叫ぼうと思う。

どうか、この想い...


届け。


「私は朝吹くんのことが...」


肺にあるだけの酸素を声帯に送り、

放った。


「好き!」


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