青い夏の、わすれもの。
「ん?」


わたしが首を傾げると、さつまくんはぼそりと呟いた。


「似合ってる」

「え?」

「浴衣、似合ってる。山本っぽい」


まさか浴衣を誉められるとは思わず、わたしの頬はみるみる熱くなった。

口にした本人はあっけらかんとしてるけど、言われたこっちは照れくさくてしょうがない。

でも、誉められたのは素直に嬉しい。


「ありがと」


わたしがそう言うと、さつまくんはにぃっと不敵な笑みを浮かべ、また顔を反らした。

わたしもさつまくんみたいにさらっと誉め言葉の1つや2つ言えるくらいの人間だったら、さつまくんを励ます言葉がぽんぽん浮かんでいたのかな?

生憎そんな脳ではないから、わたしはひたすらに頭を絞っていたのだけど、結局最後まで名案は思い浮かばなかった。
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