青い夏の、わすれもの。
とにかく腹が減っては戦は出来ぬということで、わたしはまず始めに、食べ歩きにはもってこいの大判焼きを求めて出店に向かった。

毎年見かける60代後半くらいのおじいさんのお店なのだけれど、ここの大判焼きがもぉ最高なんだよね。

今年もまた買いに来てしまいました...。


「すみません!小倉あん1つ下さい」


わたしが声をかけると、突如脇からひょっこりとさつまくんが現れた。


「今彼女が頼んだやつもう1つお願いします。お会計一緒で大丈夫です」

「えっ?」


わたしは目を丸くして隣に視線を流した。

さつまくんは「何?」と首を傾げる。

それはこちらのセリフだ。


「へい、お待ち」

「ありがとうございます」


さつまくんは2つ受け取り、片方をわたしにくれた。


「ありがとう。お代まで払ってもらっちゃって申し訳ない」


わたしがそう言うと、さつまくんはツンとした顔でわたしを見た。

屋台から漏れる赤やオレンジの灯りのせいなのか、さつまくんの頬がりんご飴のように赤く色づき、美味しそうに見えた。


「一応オレが誘ったんだし、男だし。払うのは当然だと思う」

「そうなの?だって、最近は割り勘のカップルが増えてるって言ってたよ。それなのにさつまくんは......」


言いながら...気付いた。

わたし、"カップル"っていう単語を躊躇なくさらっと言ってしまっていた。

こりゃ完全に地雷踏んだな。

喉の奥から気味の悪い何かが迫ってくる。


「何?」


さつまくんがきょとんとした顔でこちらを見ていた。

さつまくんなら、分かってるはず。

それなのにこんな顔するなんて反則だ。

演技上手いとか思ってるかもしれないけど、わたしにはバレバレなんだからね。

全くもぉ...恥ずかしい。

男女2人で歩いてる時点で、世間の目にはカップルにしか映ってないんだよ。

あぁ...軽々しく返事しなきゃ良かった。

軽率だった。

甘かった。

この大判焼きの中のあんこのように。

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