青い夏の、わすれもの。
わたしは、さつまくんが人混みに紛れ姿が見えなくなるまで見送った。

1人になったわたしは、ガラス工房の出店を覗いた。

ガラスという純真無垢な物体が熱によって変形し、様々な色によって個性を持ち、まるで呼吸をしているかのように思えた。

出店の軒先に吊るされている風鈴の音が心の隙間を通り、癒しを与えてくれる。

騒がしかった胸が落ち着き、ようやくわたしは自分の心に手を当てることが出来た。

この心にある感情の全てを

わたしの言葉でちゃんと伝えよう。

改めて決心し、顔を上げたその時、前方から駆け足でこちらにやって来る男子が視界のど真ん中に飛び込んできた。

わたしは1歩2歩と彼に歩み寄り、笑顔を溢した。


「風くん、来てくれてありがとう」

「ううん。それよりどこで話そうか。人が少なさそうなのは...」

「探さなくていいよ。すぐそこの木の下でいいから」

「でも、大事な話なんじゃ...」


場所を選んで話す権利も時間もわたしにはない。

わたしに費やす時間を風くんにとって1番大切な人に使ってほしい。

わたしはその思いを抱いて足早に1本の大樹の下に行った。

< 287 / 370 >

この作品をシェア

pagetop