青い夏の、わすれもの。
私は空を見つめた。

やはり止みそうにない。

むしろ、ますます酷くなっている。


「雨、酷くなったね」

「朝から降るって言ってたけど、まさかこんなにも降るとは思わなかった」


私がそう言うと、朝吹くんは私の隣に並んだ。


「傘持ってきてる?」

「ううん」


私が首を振ると朝吹くんはすっと人差し指で前方を指差した。

その先には...青い傘があった。


「あれ、貸すよ」

「えっ?いや、でも...」

「おれ、これもあるし」


朝吹くんはリュックの脇ポケットに入っていた折り畳み傘を取り出した。

用意周到というか、女子力が高いというか、タイミングがいいというか...。

とにかく、奇跡の確率で私の前に現れて私のフォローをしてくれた。

朝吹くんは神様だ。

そう思った。


「気をつけて帰ってね。じゃあ、また明日」

「ありがとう。朝吹くんも気をつけて」


振り向き様の笑顔がまた爽やかでカッコ良くて、私は呼吸を一瞬忘れてしまった。

朝吹くんみたいなタイプの人を世間の人たちは王子様タイプっていうのだろう。

確かにそんな感じだなぁと思いながら、私は傘の柄に手を伸ばした。

爽やかで賢そうなイメージの青。

まさに朝吹くんだ。

ありがとうございます、と心の中で何度も感謝を伝えてから、傘を開いた。


――バサッ。


ねずみ色を貫く青が、とてつもなく眩しく思えた。
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