青い夏の、わすれもの。
母はそんな父を見てカスミソウのような控えめな笑みを浮かべた。


「あの人、あれで子離れしてるつもりかしら?」

「えっ?」

「お父さん、ずっと華に友達がいないんじゃないかって心配してたのよ。それで毎週末ドライブに誘ってたの。

華に思い出を作ってあげるのは俺達だって言ってね。

だけど、もうその必要もなくなったわね。華にはもう友達も恋人もいるようだし」


えっ...ちょ、ちょっと待って。

今、恋人って...。

焦る私をよそに母はニヤニヤと薄気味悪く笑う。


「ねぇねぇどんな子?お父さんよりイケメン?」

「し、知らない」


私も父の後を追って自室へ避難しようと茶碗を片付けていると、母が流しの私を振り返って言った。


「友達も恋人も華が選んだ人なら大丈夫だって私は思ってるから。一生の思い出をその子たちとたくさん作って。心を豊かにする肥やしにして、将来立派な花を咲かせて。それが1番の親孝行だから。いい?」


お母さん...。

私は今まで私を温かく見守ってくれていた両親のことを思うと胸がいっぱいになり、瞳の奥から溢れてくる液体に対抗出来なかった。


「なに泣いてるの?明日早いんだからこんな時間に泣いたら目は腫れるし、顔パンパンだしで酷いことになるわよ。そうなったら目も当てられないんだから」

「分かってるよ...」


分かってる。

分かってる...。

分かってる......。

分かってるけど、

止められなかった。


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