青い夏の、わすれもの。
「ところでお名前は?」


私はなかなか名乗らない彼女に言った。

おそらく純粋に忘れていただけだと思う。

ちょっと天然ぽいから。


「あ、すみません!私名乗りもせずに色々話してしまって。私は3年2組の山本澪です。吹奏楽部所属で、担当はトロンボーンです」


トロンボーン...。

トランペットと同じ壇に並んで演奏してるあの長い楽器か...。

トランペットともなにかと接点が多いだろうから仲が良いってことか。

私はさりげなく嘘をついて聞き出すことにした。


「あの、実は私、昔からトランペットに興味がありまして...」

「だから、さっきさつまくんに話しかけたんですね」

「ええ。トランペットの凛としていて芯が通っている音が好きなんです」


"好き"というワードにどう食いつくのか。

私は山本さんの表情を一瞬足りとも見逃さないように大きく目を見開いた。


「確かに、トランペットの音カッコいいですよね。ボーンと違ってメロディラインを吹くことができる花形ですし、羨ましい限りです。だからこそ、さつまくんみたいに力量がある人が演奏するべき楽器なんだと思います」


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