青い夏の、わすれもの。
会場に到着すると、入り口付近は出番を控える生徒やその保護者、運営関係者などでごったがえしていた。

私は花束を守りながら大ホール入場受付まで進んで行った。

花束を渡したいけど、出番がまだの場合はどうすれば良いのか分からなかったため受付の方に聞くと、花束は全て受付に渡さなければならず、直接渡すことは出来ないと言われた。

仕方なく花束を渡そうとすると、後ろから声がかかった。


「あれ?深月さん?」


声で誰なのかすぐに分かった。

振り返るとそこには向日葵くらい眩しい彼女の顔があった。


「こんにちは、永瀬さん」

「どうも。予定通り来たんだね」

「はい」

「しかも、こんな立派な花束まで。すごいね」


私はふふっと笑った。

愛想笑いではない。

誉められたことが嬉しくて笑みが溢れた。


「それ、渡しに行くんでしょ?」

「そうしたかったんだけど、受付に渡さなきゃならないらしくて」


私がそう言うと、永瀬さんは私の腕を掴んだ。


「そんなことない。こっち来て」


私は永瀬さんに半ば引きずられるようにして一旦会場の外に出て楽器の搬入口までやって来た。

永瀬さんは私の腕を離すとにやりと笑った。


「こっから行けばすぐ練習室だから。本番まであと30分だと大抵練習AかBって書いてある部屋にいるんだよね」

「そうなんですか。良く知ってますね」

「毎年来てるから。あれ、言ってなかったっけ?あたし、トロンボーンやってる山本澪の親友」

「えっ?は、初耳です」


そうだったんだ...。

この底抜けに明るいじゃじゃ馬娘みたいな永瀬さんと優しく朗らかで天然娘っぽい山本さんが親友だったなんて...。

類は友を呼ぶって諺に反している。

世の中分からないものだ。

なんて驚いていると、永瀬さんは歩きだした。


「ほれほれ、早く行かないと遅れるぞ~」

「あっ、はい~」


私は完全に永瀬さんのペースにはめられてしまった。
< 50 / 370 >

この作品をシェア

pagetop