青い夏の、わすれもの。
「今まで見て見ぬふりしてごめん」


風くんは私に頭を深く深く下げた。


「えっ、いや、そんなに謝らなくても...」


私は恐縮してしまった。

こんな達観した人に頭を下げられる価値は自分にはないと思っていたから。

風くんが頭を上げたのは反対側の歩道を歩いていたおばあさんが、信号が青になり、こちらに渡りきった後のことだった。


「これからはおれに何でも言って。必ず助けるから」


その言葉が私にはプロポーズに聞こえた。

まるで魔法にかけられたかのようにふわふわとした気分になり、風くんが真っ白のタキシードを着てガラスの靴を差し出しているかのように思えた。

でも、当たり前だけど、それは幻だった。

ただ、純白の雪が優しく空から降ってきて、肩に舞い降りてすっと一瞬で溶けていくのだけは確かだった。

あの日から私の王子様は風くんなんだ。

賢くてサッカーが上手で誰にでも分け隔てなく優しく出来る風くんが...

私は...大好きなんだ。


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