さよならセーラー服
午前十時。
セーラー服に身を包んだ私の足取りはいつにも増して軽い。
朝、いつも通り「行ってきます」とお母さんに告げて、いつも通りローファーを鳴らして、いつも通り玄関の扉を開けて。
平然な顔をして"いつも"を繰り返した。
演技は我ながら上出来だった、と思う。
ふう、とひとつ息を吐き、足は学校とは反対方向へと進める。
家にはもう学校からの連絡がきてるのだろうか。多分きてるんだろうな、と他人事のように頭の片隅で考えてみる。それから、スマホにはきっとお母さんからの着信が山ほど入ってるんだ。
想像したら軽く目眩がしそうになったけど、そんなこともあろうかとスマホの電源は切っておいたことを思い出す。
ふと顔を上げれば、雲ひとつない青空がどこまでも広がっている。照りつける太陽が眩しくて、思わず目を細めた。
そんな青に後押しされるかのように前を見据える。
蝉の大合唱をBGMに、夏の太陽という最強のスポットライトを浴びながら、また一歩足を踏み出す。
少しの背徳感はあれど、わたしの決意は固いのだ。
すべては今日、受験生を辞めるために。