さよならセーラー服
家を出たのが八時過ぎ。それから二時間近く経っている今、日差しは徐々に強くなってきて、自然と額に汗が滲む。
心做しか足を進めるスピードが遅くなっていると感じるのは、きっと気のせいじゃない。
特段、この旅に意味はない。ただ、ちょっと疲れただけ。机に向かう毎日に。参考書と格闘する毎日に。日常に意味を見いだせなくなった、それだけだけなのだ。
うだるような暑さのなか、やっぱり夏はきらいだ、と思う。
花火に祭りにバーベキュー。
幾らか夏らしいものを挙げてみるけど、どれもこれも、受験生には関係のない話だ。
今頃、クラスメイトは空調の効いた教室で忙しなく、必死に手を動かしているんだろう。
暑さから逃れられるのは羨ましいけど、いくら涼しくたってこっちの方がまだマシだ。
それにしても、
「……あつすぎる」
汗を拭おうとあげた右腕。
手に握られた白い紙の存在に気づいて「あ、」と声が洩れた。
かれこれ何ヶ月も前に配られた進路希望用紙。それに視線を落としてはあ、と零れるため息は自然現象だ。