この度、生意気御曹司の秘書になりました。

性悪オトコ


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「…………」

「…………」


少しでも仲良くなった方がいいよ君たち〜!なんていう社長のありがた迷惑な気遣いによって、私は立花さんと一緒に廊下を歩く羽目になっていた。

御曹司である立花さん専用に部屋が用意されているとの事で、ただその部屋に向かってそう遠くない距離を歩くだけなのだが…さっきの出来事のせいで、妙に気まずい空気が流れている。


あんな酷い仕打ちを受けて、正直こんな最低男なんかと話したいとは微塵も思わないが、今後のことを考えてみれば、社長の言っていることはまさにその通りだと言えるだろう。


今なにか喋って少しでも仲良くなっておかないと、今後の仕事がやりにくくなるのは確かだ。


…なんて、そう頭では理解できるものの、いざ話しかけなければならないと思うと、思わずため息が漏れそうになる。


両手に抱えている荷物入りのダンボールもかなり重たいけど、今は正直気持ちの方がどんよりと重たい。


そんな暗い感情と理性が心の中で何秒かせめぎ合っていたが、私は何とか決心をつけて隣を歩く立花さんの顔を徐に見上げた。


………よし、ベタな話題で話しかけてみよう。


怒られませんように……なんて願いつつ、私は恐る恐る口を開いた。


「あの…立花さんて何がお好きなんですか?私はお寿司が好きです!お寿司なら毎日食べちゃ」

「あのさ」


あ、質問失敗した。

そう心底後悔したのは、私の言葉をさえぎった立花さんの冷たい声が耳に入った時だった。


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