この度、生意気御曹司の秘書になりました。
私はギョッとして、思わず自分の視線を咄嗟に手元へと戻した。
体の血の気が引いていくのが手に取るようにわかる。
無駄な会話に挑むんじゃなかった…なんて今更嘆いてももう後の祭りなわけで。
「すきなものをわざわざアンタに教えてなんかなる?」
「なら…ないです…よ、ね?あっははぁ…そうですよね…すみ」
「それに」
私に謝る隙も与えないまま、立花さんはそう言葉を続けると、急に足を止め私の方へと爪先の向きを変えた。
「アンタが何をすきだろうがどうでもいいんだよ。話しかけるな、時間の無駄」
冷たい目と同時に突き刺された辛辣な言葉に、込み上げる気持ちを抑え込むかのように下唇を強くかみ締めた。
「ただ、仲良くなりたいって思っただけなのに」
立花さんはそんな私の声を耳にもとめず、気早々と廊下を歩いていった。
本当に私はあんな人とちゃんと仕事が出来るのだろうか。莫大か不安が背中に大きく被さり、気が遠くなる。
ーーーだけど。
せっかく社長に任せてもらった仕事だ。今までだってきつい仕事を、きつい社員の当たりにだって耐えてきたじゃないか…!大丈夫、私は大丈夫!
……それに、私には大切に思ってくれる人がいる。
私はその場に大きく息を吐くと、立花さんの後を駆け足で追いかけたのだった。