この度、生意気御曹司の秘書になりました。


「俊介?どうしたの?」

「悪い、…また母親からだ。」


〝母親〟。俊介は実家暮らしで、どうやら母親と2人暮らしをしているらしい。私とデートしている時も、こうやって二人で帰っている時も、よく母親から電話がかかってくる。だから今日のことも稀ではない。

俊介曰く、『早く帰ってこい』という旨の急かし電話らしい。

まぁ、初めは少し戸惑っていたけれど、今となってはもう慣れっこだ。


「そっか、きっと心配してるんだね」

「本当はちゃんと送って行きたいんだけど…」


申し訳なさそうに私を見る俊介に胸が痛む。私も俊介ともっと一緒にいたいけど、こればっかりは仕方がない。私はそんな俊介の手を取ると、優しく力を込めた。


「私のことは大丈夫だから気にしないで?早くお母さんの所に行ってあげて」

「雪、いつもごめんね。ありがとう」


俊介は私の前髪に軽くキスを落とすと、私を気にかけながら何度か私を振り返りつつ、歩道を急いでかけていった。


「すき、だなぁ」


そんな彼を見て、思わずそう声を漏らす。本当に私には勿体ない人だ……俊介は。


秋の冷たい風が頬を容赦なく吹き付ける中、私はまだ熱を帯びた自分の掌を握りしめたのだった。


.
.
.

< 16 / 16 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

好きになって、俺のこと

総文字数/2,019

恋愛(ラブコメ)5ページ

表紙を見る
浮気 × 浮気

総文字数/86,880

恋愛(キケン・ダーク)236ページ

表紙を見る
君に好きと、伝えるまで。

総文字数/4,367

恋愛(純愛)22ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop