この度、生意気御曹司の秘書になりました。
「俊介?どうしたの?」
「悪い、…また母親からだ。」
〝母親〟。俊介は実家暮らしで、どうやら母親と2人暮らしをしているらしい。私とデートしている時も、こうやって二人で帰っている時も、よく母親から電話がかかってくる。だから今日のことも稀ではない。
俊介曰く、『早く帰ってこい』という旨の急かし電話らしい。
まぁ、初めは少し戸惑っていたけれど、今となってはもう慣れっこだ。
「そっか、きっと心配してるんだね」
「本当はちゃんと送って行きたいんだけど…」
申し訳なさそうに私を見る俊介に胸が痛む。私も俊介ともっと一緒にいたいけど、こればっかりは仕方がない。私はそんな俊介の手を取ると、優しく力を込めた。
「私のことは大丈夫だから気にしないで?早くお母さんの所に行ってあげて」
「雪、いつもごめんね。ありがとう」
俊介は私の前髪に軽くキスを落とすと、私を気にかけながら何度か私を振り返りつつ、歩道を急いでかけていった。
「すき、だなぁ」
そんな彼を見て、思わずそう声を漏らす。本当に私には勿体ない人だ……俊介は。
秋の冷たい風が頬を容赦なく吹き付ける中、私はまだ熱を帯びた自分の掌を握りしめたのだった。
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