この度、生意気御曹司の秘書になりました。
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最悪な出合い
* * *
落ち着いたクラシックの音楽が、煌びやかで厳かな店内を穏やかに彩っている。
ショーケースの中にはキラキラと光る宝石があしらわれたネックレスや指輪、イヤリング、ピアスなどが均等に美しく並べられていた。
「綺麗…」
まるで宝石箱を覗いているかのような気分になりながら、私はそう感嘆のため息を漏らした。
そんな私を見て、横にいた彼氏の持田 俊介(モチダ シュンスケ)がクスクスっと笑う。
私には全く縁がない所だと思っていたのに、数合わせの合コン先で偶然出逢った運命の人と長く付き合って、結婚の話も出ているなんて。
昔の私が知ったら、きっと腰を抜かして驚くだろう。
私、白藤 雪(シラフジ ユキ)は、幼い頃に両親を事故で失い、長い間、母の妹の家でお世話になっていた。けれど母が妹と不仲であった為、私は邪魔者として嫌われ、高校を出てすぐに就職し、一人暮らしを強いられるという生活を送っていた。
お付き合いすることも、もちろん結婚も、そんな私には無理だろうと思っていたのに。こんな素敵な人に出会えたなんて。神様にお礼してもし切れない。
「雪にはこういうのが似合いそうだな」
「え?」
「これだよ、“雪”の結晶の指輪」
そう言って俊介が指さしたのは、幾つもの小さな宝石が施された可愛らしくて…そしてどこか儚げなデザインの指輪だった。
「こんな素敵な指輪…私なんかには似合わないよ…」
「いや、むしろ雪以外に誰が似合うんだよ?」
そう言って私の顔を覗き込むようにして笑う俊介に胸が大きく飛び跳ねた。もう付き合って2年にもなるというのに、俊介の不意打ちにはいつになっても慣れやしない。