この度、生意気御曹司の秘書になりました。
俊介の優しい眼差しに耐えきれなくなった私は思わず視線を下へと逸らした。俊介はそんな私をからかうようにして小さく笑ったあと、急に近くにいた店員さんへと声を掛けた。
「すいません、この指輪頂けますか?」
「えっ?!」
思いもよらなかった俊介の言葉にあまりに驚いてそう声を上げれば、俊介はまた私に柔らかい笑顔を向けた。
「雪にどうしても付けてもらいたいって思ったんだ、受け取ってくれるよね?」
今日は結婚指輪の下見で来ただけなのに…。
申し訳ない気持ちが勝ってしまい、どうしても口を開けずにいると、俊介が不意に私の手を取った。
「そんな顔しないで。雪への俺の気持ちだから」
あまりにも真っ直ぐな視線に、ジンと目の奥が熱くなるのを感じた。こんなにも私のことを大切に思ってくれているのは、きっとこの人だけだ。
俊介に小さく首を縦に振り、「ありがとう」と呟くと、俊介は嬉しそうに私を見て微笑んだ。
二人で一緒にお店を出て、もう既に暗くなった街の空の下で、俊介は私の薬指にさっき買った指輪をはめてくれた。
キラキラと輝く綺麗なそれは、本当に自分なんかが付けていいものかと疑ってしまうほど美しいものだった。
「結婚指輪も楽しみにしてて」
「うん…っ」
仕事終わり、こうして俊介と会って話をして、手を繋いで最寄り駅まで向かうこの時間が私にとっての仕事の活力になっていた。
…………なっていたというのに。