この度、生意気御曹司の秘書になりました。

両手で自分の重い荷物を運びながら、再び社長室へと向かう。

毎回毎回異動の度に思うけれど、私は本当に荷物が多い。ダンボールに積み重ねられた資料や本が、ほぼ自分の顔と同じくらいの高さまであるせいでかなり前が見ずらい。

そろそろちゃんと断捨離しないとな…。

なんて小さくため息を漏らしたそんな矢先。


「ぎゃっ!」


丁度曲がり角の死角で人が歩いてきている事に全く気づかなかった私は、曲がってきた相手と勢いよくぶつかってしまった。

その反動で体の重心が一気に後ろへ傾いていく。ダンボールの重さも相まって、抗う術なく背中が地面に吸い寄せられる。

バサバサとダンボールの中身が落ちていく音がして、私は次に襲いかかってくるであろう強い痛みから逃げるように、キュッと強く目を瞑った。


…………けれど。


私が恐れていた痛みは全くもって感じない。それどころか、爽やかな柑橘系の香りに体が包まれているような気がする。

私は恐る恐る目を開き、現状を確認しようとした。

そうすれば…………


「…………っ!!」


端正な顔立ちが至近距離で目に飛び込んできたのだ。

あまりの出来事に驚いてしまった私は、思わず彼の胸板を思い切り突き飛ばしてしまい、せっかく助けてくれたのであろう彼に思い切り尻もちをつかせてしまった。


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