この度、生意気御曹司の秘書になりました。
「あっ、え、あ、ごっ、ごめんなさい……っ!」
咄嗟に自分がしてしまったことの重大さに気づいた私は、急いで彼に駆け寄り、手を差し伸べた。
…………しかし。
________バシッ
そんな鈍い音と同時に、掌に走った痛み。
手を、払い除けられた……?
何が起こったのかわからなくて、私は間抜けにも口をぽかんと開けたまま、尻もちをついたまま私を鋭く睨みつける彼をただ呆然と見つめていた。
「邪魔だ、どけ」
低く発せられたその言葉に怖気付き、その場から動けないでいると、聞こえてきたのは大きな舌打ち。
それに肩を小さくビクつかせた私を一瞥した彼は、気だるそうにその場に立ち上がった。そしてわざと私に肩をぶつけ通り過ぎた後、散らばった私の荷物を鼻で笑う声がした。
「ゴミはちゃんと拾えよ」
そんな彼の冷たい声に反射的に振り向けば、落ちていた私の本を足で蹴飛ばしている彼の様子が丁度目に入った。
ーーその瞬間、ピキンと頭に稲妻が走る。
だって彼が蹴飛ばしたその本は、私の誕生日にプレゼントとして俊介がくれたものだったからだ。
私は、何食わぬ様子で足を廊下の奥へと進める彼の背中を追いかけ、咄嗟に腕を掴んだ。
そうすれば、彼の冷徹な視線が私の方へ向けられる。そんな視線に少し慄いてしまったけど、なんとか震える声が喉から振り絞った。
「…謝って」
「は?」
「確かに…確かにぶつかった私が悪いし、せっかく助けて貰ったのに付き倒したのも全部私が悪い。だけど!人の物をゴミ扱いして、足で蹴飛ばすなんて人としてどうかしてるよ!」