秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~

―21時過ぎ

部屋にインターホンが鳴り響く。私はソワソワしながら玄関を開けた。
拓海は薄手のパーカーに帽子をかぶっていて、いつものダルそうな顔をしながら立っていた。

どうぞ、と声をかけるが自分でもわかるくらいにぎこちない。

彼はというと別にそんなこともなくて普通通りだった。

「何か食べる?残りでいいならあるけど」
「それがいい」

帽子を脱いでようやく笑みを向ける拓海が今日はテレビの中の”彼”に見えた。
その気持ちを悟られないように私はさっと目を離した。
そんな手の込んだ料理じゃなくてもいつも喜んで食べてくれる。多分、普段はもっといいものを食べているはずなのに…―。

「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」

テーブルに作り置きしていたひじきの煮物や今日の夕飯の豚の生姜焼き、サラダ、味噌汁を並べる。今日は夜に来るって連絡があったから予め彼の分も作っておいた。
それも暗黙の了解というか、いつもこの流れなのだ。

拓海の隣に腰を下ろした。ふわり、女性ものの香水の香りが鼻を掠める。



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