秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
「あーごめん、間違えた。こっち」
「え?そうなの」
「それ一話、手伝ってほしいのはこっち」

そう言って持っていた台本を取り上げられて、トートバッグから取り出した台本と交換した。
私は手渡された台本をパラパラと捲る。二話と書かれてあって驚く。
先ほどの台本は一話なのだと理解した。それにしたって、こんな量を暗記して演技するなんて…。

「で、最初から?」
「ううん、48ページから」
「…わかった」

とりあえず私は拓海の前に立ってセリフだけ言えばいいようだから軽く目を通す。”エミ”と書かれてあるのが拓海の相手役の名前らしい。
でも、私はページを捲る手を止めた。

「ちょっと待って…これ、」
「うん、ベッドシーンあるんだ」

そりゃそうだ、酔った勢いで一夜を共にする…そういう設定だから別に驚きはしない。でも、私が今読むシーンはがっつり濡れ場で顔が引きつるのが自分でもわかった。

私は台本を閉じる。そして拓海に押し付けるようにしてそれを返す。

「無理だよ、セリフほとんどないし」
「手伝ってくれるって言ったじゃん」
「無理無理、絶対に無理」

私は頑なに首を横に振って拒否する。拓海はいつもの口調で譲る気はないようだった。

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