秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
―何かを隠している

そう確信した。絶対にそうだ。
沙月の涙を指で拭うと震える声で言った。

「私たち、少し距離を置こう」
「…は?」
「ちょっと疲れたの。今回の件もそうだけど」
「何言ってんの。そんなの俺は認めない」
「…私は…ごめん、疲れたの」
「じゃあ、俺のこと嫌いになったってこと?」

沙月の瞳が揺れる。
そして親指を隠すようにして拳を作る。

「そうかもね。それと、拓海はちゃんと芸能界で輝いていてほしいの」
「俺には芸能界なんかどうだっていい。それは沙月がよくわかってるだろ」

語尾が荒くなって沙月の肩を掴み、つい強く揺らしてしまう。
彼女が顔を歪めていてもお構いなしで俺は怒鳴るようにしていう。

「芸能界なんてどうだっていいんだよ」
「そんなことない!拓海には一番この世界が合ってるんだよ。どうだっていいなんて言わないで…お願い」

これは本心だと思った。
でも距離を置きたいといったのは嘘だ。
彼女は嘘をつくとき、親指を隠す癖がある。
本人は気づいていない。

”嫌いになったってこと?”
”そうかもね”

嘘をついてまで俺から離れたい理由はなんだ。
何を隠しているんだよ、沙月。

しかし、彼女が頑固で今問い詰めたところで口を割らないことはわかっている。長年一緒にいるからわかる。
俺はそっと彼女から離れた。


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