秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
「俺は別れる気ないよ」
「…」
「明日も来るから」

そう言い残してとりあえず俺は自分の家に帰った。
どこか憂いを帯びていて、苦しそうに震える彼女を守りたいと強く思った。

ようやく沙月と思いが通じ合えたのに、そんな簡単に手放せるほど俺は聞き分けはよくない。
自分の家のドアを開けると、同時にマサトが自宅から出てきて隣の部屋ということもあって目が合った。

「マサト、今日は?休み?」
「ん。そう。で?お前の彼女は?元気?」

マサトにも怪我を負わせてしまったし、沙月を守ったのは俺じゃなくてマサトだ。その事実が悔しい。
俺がその場にいたら、何度も考えてしまう。マサトは帽子を深く被っていた。
どこか出かけるのだろうか。

「元気じゃないよ。あんなことがあったんだから」
「へぇ、そう。いい女だよなぁ、沙月」
「…」

ドアノブに手を掛けたまま、固まる。自然に沙月と呼ぶマサトに違和感があった。マサトは誰とでも距離が近いから別におかしいことはない。
なのにどうして”気持ち悪さ”のような得体の知れない感情が沸き起こるのだろう。

「じゃあ、またな」
「うん」

マサトがエレベーターに向かって歩いていくのを見つめながら考えていた。
沙月は、何を隠しているのだろう。それは、マサトが関係しているなんてことはないよな。

ぐっとドアノブを引き、家に入る。

玄関ホールが自動で視界を照らすのに、待ってくれている大切な人がいないことがどうしようもなく辛かった。

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