秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
すぐに背後を振り返り彼を見ると杉山君は訝しげに拓海を見ていた。

「は、早く帰って!ね?」
「あの人誰ですか。こっち向かってきてますけど」
「さぁ?通行人じゃない?」
「ふぅん」

納得いかない返事をしながらも自転車を押しながら私の横を通り過ぎていく彼を横目で捉えてほっとしたのもつかの間、

「沙月、」
「っ」

ちょうど杉山君と拓海がすれ違ったと同時に拓海が私の名前を呼んで手をあげる。
ひゅうっと喉の奥が縮まるのを感じながら、その声に後ろを振り返る杉山君と目が合った。

「沙月、どうしたの。今終わったんでしょ?」
「拓海!塾の前ではダメだってば!ばれたらどうするの!」
「ばれてもいいじゃん」

本当に彼には危機感というものがない。芸能界に執着していないからこその余裕なのかもしれないけど私の方がヒヤヒヤだ。

「沙月先生!」
そして杉山君も踵を返してこちらへ向かってくる。
何も知らない拓海が杉山君へ目を向ける。

「拓海、とにかく先にどこかに行ってて」
「なんで?せっかく迎えに来たのに?ていうか、あの子生徒?」

拓海はキャップを掴んでぐっとさらに深くかぶり顔を隠す。
杉山君が戻ってくると

「さっき”通行人じゃない?”って言ってたけど知り合いだったんですか?それとも彼氏ですか」
「…」
「通行人?」
拓海がどういうこと?というように私を見るが、あなたのためにばれないようにしているのに!という思いをぐっと押し込んで苦笑いをする。

< 160 / 215 >

この作品をシェア

pagetop