秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
知っているようで私は拓海のことを何一つとして知らないのでは…?
そんなわけない、何年も何十年も一緒だったじゃない。
…なのに、その問題にも答えられない自分が情けなかった。

「…ごめん、わかんない」
「だろうね、だって言ってないし」
「ごめん」
「正解は沙月の視界に入りたかったから、だよ」
「…え、」

その答えはあまりにも想定外で、私は息をのむ。
視界に入りたい、抽象的過ぎるそのワードはいつまでも咀嚼できずに心の奥に残ったままだ。

「意味わからない?」

こくっと頷くと拓海は小さく笑って私の瞳の奥を覗き込もうとする。
キスなんてしなくたって、十分すぎるほどに近い距離だ。
お互いの吐息が混じり合って顔を背けたくなる。

「ほら、拓哉さんかっこいい!とかよく言ってたじゃん。あと南くんかっこいい!とか」
「え、そうだっけ」
「そうだよ。それが嫌だった。ずっと隣にいたのに、一度も俺のこと見てくれないじゃん」
「…」
「芸能界に入ったら俺の映画、ドラマ見てくれるようになって嬉しかった」

昔のことで覚えてもいないけど、まさか彼の芸能界へ入った理由が私だとは思いもしなくて私は呼吸も忘れて彼を見つめる。



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