秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
ふっと口元に緩い笑みを浮かべて虚無感にとらわれている様子の沙也さんは窓の外に目をやる。

「ずっと好きだったもんね。よかったね、実って」
「うん、そうだね」
「待ち受けも、家に飾ってる写真も、今隣にいる沙月さんで。寝言もそうだったね。それでも忘れられないなんて、馬鹿みたい」

自嘲するようにそう言って彼女は立ち上がった。
千円札をテーブルの上に置くと、「さようなら」と言って歩き出す。
最後に私を一瞥していく彼女はどこかすっきりしたような、そんな顔をしていた。

「お待たせしました、アイスコーヒーです」

彼女が帰ってからちょうどアイスコーヒーが運ばれてきた。

「拓海…」
「せっかくだからちょっとゆっくりしていこう」

彼はそう言って私に笑いかける。
先ほどまでの張りつめた空気が一瞬で緩んで、対照的な優しい空気が漂う。

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