恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
千秋さんの切なそうな、苦しそうな顔を見ると私も同じように苦しくなる。

「ごめん」
「…」

振り払ってしまった手は重力に従うように行き場を失い戻っていく。
私は、謝らなきゃ、そう思うのに心にかかるモヤが一向に薄れることがないせいで言葉が出てこない。

…あぁ、私が千秋さんとセックスしていたら、こんなことにはならなかったのではないだろうか。

「雪乃の件だけど」
「はい…」

重い空気がリビングに溢れて少しずつ体にのしかかってくる。
雪乃さんの名前は聞きたくない。負の感情が芽生えていくから…。
いつか心が真っ黒になってしまわないだろうか。

伏し目がちに視線を彷徨わせる。

「君に何の用があったのかはわからない。結局言わなかったんだ。でも、」
「…」
「何かを探っている様子だったから注意してほしい」


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