恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
「そういうと思ったよ。母さんも父さんも昔から友人ですら付き合う価値があるか自分勝手なベクトルではかろうとしていたね。桜子はそういうことはしない。芯のある尊敬できる女性だよ」
「尊敬ねぇ」

今度はお義母さんが口を開いた。
舐めまわすように全身に視線を向けられて顔が引きつってしまう。

「母子家庭で育ち、お母様は今どちらに?」
「…それ、は…」
「どこにいるか、わからないのでは?」
「…はい、そうです」

全て知っているはずだ。
母親が借金を残して、それを私に押し付け蒸発したことだって知っているはずだ。そしておそらくは、その借金を返済するために千秋さんに近づいたと思っているはず。契約結婚だということを知らなければ、とんだ悪女に見えるだろう。それに、千秋さんに借金返済してもらったのは事実だ。

言い返せない私の隣で小さく千秋さんが笑った。

「桜子、わざわざここまでついてきてくれてありがとう」

視線を彼に向けると優しく笑ってくれる千秋さんが私の太ももに置かれた手をそっと握った。

「今日は別に挨拶に来たわけじゃない」
「え、どういう…」
「もともと、認めてもらおうなんて思ってないよ。今だってそうなのに。どうせ桜子が努力したって認めるわけないんだ。それは息子の俺が一番よく知ってる」
「千秋さん…?」

千秋さんの口調はいつもよりも速く、そして怒気を孕んでいる。
お義父さんとお義母さんを睨むようにして見据える。

「だから今日は縁を切りに来た」
「…え…―」


静かにそう言った。

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