恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
白いハンカチは周りがピンク色の花の刺繍で囲まれていて上品で素敵だった。
これで涙を拭くのも勿体ない気がするけど、せっかくだからそれを借りて涙を拭いた。
ふわっといい香りがした。

千秋さんも立ち上がって、「帰ろうか」と言った。

「縁を切る話はとりあえず保留にするよ。でも桜子に嫌がらせとかするようならすぐにそうさせてもらう」
「大丈夫ですよ、私ならそのくらい…あ、でも高校生の頃ストレスで10円ハゲが出来たことがあるんです。だからそれが出来たら限界だと察してください」

昔を思い出して苦い顔をすると隣の千秋さんが軽く笑って私の頭を撫でる。
親の前でも関係なくこんなことをしてしまう彼にドキドキしながらもこの温もりを決して離したくないと思った。

「あの、このハンカチは…―」
「あぁ、それね。私のお気に入りのハンカチなの。だから洗って返してちょうだい」
「え?」
「あら。あなたに差し上げるなんて言ってないわよ。ちゃんと返してね」

お義母さんがふんと鼻を鳴らしてそう言った。
その隣でお義父さんもぶっきらぼうに頷く。

もう一度会ってくれるということだろうか。
呆然と立ち尽くす私にお義母さんは続けた。


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