恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
「さて、そろそろ行かないと。あ、雪乃さんには私からしっかりと言っておきますから。それからそんな話はどうでもいいけど、これ。今日はこの本を持ってきたのよ。ちゃんと勉強するのよ。社長の妻ならばお金の管理くらいしっかりしなさい」
「え…はい」

あくまでも私の件は“ついで“であり、本来の目的はこのお義母さんが持ってきた分厚い本は株やら金融やらのよくわからない本を私に渡すためだったらしい。
MBAマネジメントなんちゃらという本もあって顔を歪めてしまう。知らないよ、こんなの…

「夫の会社の経営状況がどうなのか、それくらいわかるようにしておきなさい」

そう言って颯爽と帰っていくお義母さんにある意味脱帽しながらも心に積もっていた不安が一気に消えて本当によかった。



…――


千秋さんが帰宅した。
私は夕飯を作りながら彼におかえりなさいと言った。

「今日お義母さんがきました」
「え?!なんで?」

帰宅後、すぐに私は今日お義母さんが自宅へ来たこと、そして…私たちの契約結婚を知っていることを話した。
すると千秋さんは多少驚いているものの、

「そうかなとは思ってた」

と想定内だという反応をして、だったら私にも教えてほしいよと思いながらも安堵した。
なんだ、悩む必要なんかなかったのかもしれない。

と。

背広を脱ぎながら、ふと、真剣な表情になる千秋さんはゆっくりと口を開いた。

「何か悩んでいるようだったけど…解決したの?」
「…」
「俺は君の夫だよ。全部話してほしいし、君の全部を知りたい、そう思うのは自然なことだと思うけど?」
「千秋さん…」
「だから、もうやめよう。契約結婚」
「え、」

お皿を並べる手が止まった。
千秋さんの真剣な目はしっかりと私を見据えている。契約結婚をやめる、その意味が理解できなくて固まる私をよそに彼は続けた。
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