恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
こんな偶然あるのだろうか、まさか急に結婚することになった相手はあの幼少期に助けてくれた初恋の相手だなんて。
一瞬で当時の光景が頭の中に浮かんできた。

泣かないようにしていたのに、なつき君がいたら何故か自然と涙が出ていて心の支えだった。
急に来なくなってしまったから、引っ越しとかあったのかもしれないけれど今になって胸の奥が温かくなって、なんだか目尻に涙が溜まってしまう。

「まさか弟と知り合いだなんて…」
「…へぇ、兄貴と結婚した人って…桜子だったんだ」

なんだろう、不愛想と聞いていた通りの人なのだけれど当時のなつき君の印象がどうしても強いから違和感があった。
あの当時は結構癒し系の可愛い子って感じだったような…。

「これ、」
「え?名刺?」
「うん」

急に彼が目の前まで来たかと思ったら名刺入れから名刺を取り出して私に差し出す。
そこには会社名と連絡先、そして

「朝宮…夏希…」

名前が書いてあった。
そっか、こういう字を書くんだ。初めて知った。

私はにっこり笑って

「ありがとう。あの時は急にいなくなるから悲しかったんだよね」
「…ごめん、親の都合で」
「でもこうしてまた会うのも奇跡だなぁ」

夏希君は不愛想なのに、私が笑うと一緒に笑ってくれた。
あぁ、何も変わっていない。あの時と同じ笑顔だと思った。

「そっか、二人とも仲いいんだ」
「小学生のころ夏希君のお陰で命拾いしたというか…」
「ふーん、そうなんだ。俺よりも夏希のほうが君のこと知ってるってことか」

< 30 / 282 >

この作品をシェア

pagetop