恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
そんなふうに言ってくれるなんて思ってもいない私は固まってしまった。
手から滑り落ちた本を朝宮さんが拾って私に手渡してくれた。

「はい、」
「…あの!」
「ん?」

私はその本を素早くベットの上に移動して、詰め寄るようにして朝宮さんに向かい合った。

「触れてもいいでしょうか!」
「…え?!」
「手に…」

朝宮さんが驚いて目を見開き、戸惑った様子をみせた。
手に…というと、ほっとしたように笑った。

「いいよ。でも、その言葉は他の人には言っちゃだめだよ」
「…何故でしょうか」
「んー、そうだなぁ、勘違いするから、かな?」

まだ意味がわかっていない私にクスクス笑いながら「どうぞ」そう言って右手を私の前に差し出した。きれいな手だった。

男性に触れられるのは好きじゃなかった。むしろ嫌だ。
でも、朝宮さんには触れてみたいと思った。
ゆっくりと差し出された手に自分のそれを重ねた。

「…あ、」

嫌な感じがなくて、温かいその手に私はつい声を漏らした。

「綺麗な手だね」
「…私の手が?」
「うん。とても綺麗だよ」

嬉しかった。そんなことを言われた経験がなかったから照れてしまう。
朝宮さんの奥さんになれてよかった、なんて恋愛結婚じゃないのに思ってしまった。
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