恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
何故そんな表情をするのかわからない。聞いてはいけなかったようだ。
軽く咳ばらいをした雪乃さんがまだ顔を引きつらせた状態で髪を整えるような仕草をした。

「…嫌いなものくらい彼に聞いたらどうですか」
「あ、そうですね。わかりました」
「…私、もう帰ります」
「あ、はい」

コーヒーは飲まないのに出してしまったせいで怒っているようだ。
体を冷やさない飲み物を来客用に買っておこう。

雪乃さんは最後まで怒った様子で玄関ホールまでスタスタ歩いていく。
その背中を見ながらもう一度謝った方がいいのか考えた。
と、急に雪乃さんがこちらへ振り向いて

「私と千秋さんは深い仲です」
「へぇ、そうなんですか!」
「だから!深い仲って言ってるの!意味わかる?あなた結婚したのよね?何その余裕そうな態度」
「…余裕というわけでは」

そうだ、契約結婚ということは内緒だった。
好き同士なら…今のような返答は不自然だ。

「わ、私が妻なので!!夫に手を出さないでください!」
「はぁ?!さっきと反応真逆すぎるんだけど」
「そうですか?さっきのは妻の”余裕”です」
「…」

喜怒哀楽の怒だけ協調するように怒って家を出てしまった雪乃さん。

…あぁ、どうしよう。千秋さんになんて言えばいいのだろう。
ため息を溢したとき、すぐにまたインターホンが鳴った。

「…夏希君、」

画面には夏希君の姿があった。



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