恋の駆け引きはいつだって刺激的【完結】
「どうしたの?」
「…いえ、その…」

やはりまだ完全には克服したわけではないようだった。
千秋さんはすぐに察してくれたようで、私の頬を優しく撫でながら軽く頬にキスを落とした。

「…何かあったんだよね、昔」
「…」

千秋さんの優しくて温かな声は全身の緊張を一気に解いてくれてこの人になら身を任せてもいいと思えた。
私は、幼少期にあったトラウマを話した。
そのせいで今まで恋が出来なかったこと、これからもするつもりがないことを。


「そっか、ありがとう話してくれて」
「…いえ、」
「でも大丈夫。俺はその人じゃない」
「…」
「ゆっくりでいいから桜子の全部、俺にくれない?」
「え、」
「ダメかな」

何とも言えない、彼の妖艶な雰囲気に包まれて何て返したらいいのか考えていた。
…全部って、全部?
私のすべて?


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