お姫様は恋してる?
ソファーで絵本を読んでいた一叶は、かわいいあくびをしていた。

そろそろベッドに連れて行こうと立ち上がった。

「そろそろ一叶、寝かしつけてくる。」

「ありがとう。よろしくね。」

香子は普通に頼んでいるが、一誠はまた目を丸くしている。

「しゅ、秀介…」

「一誠は、冷めないうちにご飯を食べてね。」

それ以上言わせない香子と一誠を横目に一叶の部屋に行き、絵本を一冊選ぶと一緒に布団に入った。

眠そうな子どもの体温は、こちらまでねむりに誘ってくる。

ハッと気付くと時計は、11時を回っていた。

一叶を起こさないように布団から抜け出し、リビングに行くと一誠が、ひとりで飲んでいた。

「一誠、ひとりか。」

「秀介は、まだいたのか。」

「寝かしつけて一緒に落ちてた。」

「遅いし、飲んで泊まるか。」

一誠に水割りを作ってもらい、横に座ってふたりで飲み始めた。

「なぁ、秀介は、一叶の世話をなんでしてくれてんのか。」

「なんでだろうな。ただ生まれる前から気にしていた存在で、懐いているからかわいくて…」

「まだ小さいから分かっていないが、そのうち父親のこと鬱陶しいと言うみたいに嫌がられろ。」

「一誠、それ自分も同じ目に遭うんじゃ…」

「俺には香子がいるから、寂しくないな。」

「ひでぇな。まぁ俺も一叶に加齢臭で嫌っとか言われないように努力はしないとな。」

「秀介、お前いつまで一叶の側にいるつもりだ。」

一誠に言われて、はたと思った。

俺は父親じゃないんだから、なんの責任もない。

別に距離を置いても問題はない。

でも、なぜか一叶の側にずっといるのを当たり前と思っている自分に戸惑っていた。

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