【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

「もぉ~本当にびっくり。真凛ちゃんがまさか伊織さんみたいな素敵な人と結婚しているなんて~。
そりゃあ蒼汰くんみたいな男に振られても余裕だったわけだよね」

ニコニコと笑いながらも桃菜は人の傷を抉っていく。 慣れてはいるけど、別に蒼汰との別れが平気だったわけじゃない。 それなりに傷ついていた、だがそれを表に見せなかっただけだ。

そもそも伊織さんとの契約結婚はあんたが蒼汰を取った後に母が言い出した事だ。

「私達の結婚には色々と事情があるのよ…」

「でも伊織さんって本当に素敵な人…!
ブラウンの髪の毛と瞳がどこかミステリアスで超かっこいい!
あんなに綺麗な顔をした男の人中々いないよぉ~。真凛ちゃんが羨ましいな~。いいなあー」

’いいなあー’は桃菜の昔からの口癖だ。 いつも私の持っているもの’いいなあー’と言いながら真似していた。

私はいいなあという言葉が苦手だった。

どれだけいいなあと羨ましく思っても、それは所詮他人の物。 自分の手に入るわけないと欲しがる前に諦める癖は子供の頃からついている。

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