【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
一番幼い頃の記憶であれば初めていいなあと思ったのは、他人のお母さんである。 いつも家に居てご飯を作って愛してくれる、そんな普通のお母さんがいいなあと思っていた。
けれどそれを口に出せば祖父母が悲しがることを知っていたので、口に出して言った事はない。
だからある意味素直に’いいなあー’と言える桃菜が羨ましくはある。
「ねぇねぇ、真凛ちゃん」
ベッドから起き上がった桃菜は私の体に顔を寄せ、甘ったるい声で言う。
「伊織さん、エッチも上手なの?」
「は?!?!?!」
ふふっと笑いながら口元を両手で押さえる。 けれど桃菜の言葉に嫌悪感を覚えるばかりだ。
「どういう感じなのかなって気になっちゃって。あんな素敵な人に抱かれる真凛ちゃんが心から羨ましい!」
桃菜の言葉に体中の熱が顔に集まっていく。 口をぱくぱくとさせながら言葉を発せずにいた。
そんな事、よくもまあ口に出来る。