【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
アルバイトをするようになって、他人から’市ヶ谷さん’と苗字で呼ばれるようになった。
すると段々自分がいつの間にか市ヶ谷さんになっていて、結婚して苗字が変わったのだと実感する。
それに慣れて行くのは、ちょっぴり不思議な気持ちで嬉しい。
裏の倉庫に入り重い段ボールを抱えながら、左手の薬指を見つめる、と。
伊織さんとも出会った頃よりかはずっと近くに感じるようになったのに、何故か今は遠く感じる。
それはやっぱり桃菜がいるせいだと思う。
「今日もバイト疲れたね~。接客業って基本的に立ちっぱなしだし、足がいた~い。
でも店長が買ってくれたアイス美味しい~。うちのアイス安いのに美味しいよねぇ~」
夕方に桃菜とバイトを上がり、一緒にマンションに帰る。 桃菜は店長に買って貰ったというアイスを食べながら私の後ろをゆっくりと歩く。
「桃菜、ちゃんと仕事はしなくちゃ駄目だよ?」
「え?」