【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
心から嫌いになるのが難しいから、距離を置こうと思っていたのに。
ハァと小さなため息を漏らし部屋を出て行くと、目の前にぬっと壁になって立っていたのは伊織さんだった。
「何が嫌いになれないのだ?」
「うわあ…びっくりした…!」
昨日の今日だ。すっごく気まずい。
口を八の字に結びこちらを見下ろす伊織さんから、スッと視線を外す。
こうやって避けてしまうなんて、まるで子供みたい。 でも今伊織さんの顔を直視したら顔が絶対に赤くなる。 気持ちバレたくない!
「朝からバタバタしていたな。これから仕事だろう?」
「え…ええ…。伊織さんもこれから仕事ですよね。
実は桃菜が熱を出しちゃって。 昔から体が弱い子なんで慣れっこだとは思うんですけど
私今日ボヤージュにはラストまで出勤になっちゃって…子供じゃないから大丈夫だとは思うんですけど」