【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
「真凛…ちが…」
「最低…です…」
唇まで震えて、やっと言えた言葉がそれだった。
バタンと扉を閉めて、そのままマンションから飛び出してしまった。
財布と携帯だけ持って、二人の前を後にすると途端にぼろりと涙が零れ落ちた。
こういう事が起こるかもしれないって何度も想定していたけれど、実際見てしまうとショックだな。
今まで桃菜が私の彼氏と浮気をする度に傷ついてきたけれど、何とか平常心を保っていられた。
そういう男だったんだよ、と心の中で納得していられた。
けれど、伊織さんはそういう人だとは信じたくなかった。 少し変わっているけれど、実は優しい人だから私を傷つけない人だ、と勝手に期待してしまったのだ。
そんな自分が悔しくて、益々涙が滲んでいく。
こんな醜くくてかっこ悪い自分を伊織さんには見せたくない。
何より伊織さんの顔を見たくなかった。