【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
「初めまして、市ヶ谷 孝守と申します。」
姿勢良く私へとお辞儀をしたその人からは、どこか気品が感じられた。 写真で見るより、ずっと顔が整っている。若い頃は相当モテたに違いない。
「市ヶ谷様ったら、どうか顔を上げて下さい!
今お茶を淹れますので、待っていてくださいね?」
「いえいえ、そんなお気を遣わないで下さい」
あからさまにへこへこと頭を下げて、彼のご機嫌を窺う母に苛立ちを感じる。
キッと睨みつけると、母はびくりと肩をすくめてそそくさとキッチンに逃げて行った。
入り口に立っているがたいの良い男性二人はどうやら彼のボディガードらしい。 改めて本当の大企業の会長で立場のある人なのだと思う。
昨日の母の説明ではいまいち理解出来なかった。 一体彼が祖母とどういう関係なのかも。
顔を上げごくりと生唾を呑み込むと、彼は目尻に皺を寄せて私を優しく見つめた。
「ああ、やっぱりるり子に良く似ている」
「あのぉ……」
’るり子’は祖母の名前だ。 彼はそれをまるで慣れ親しんだ人の名前のように優しく呼ぶ。