【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない
桃菜の部屋で伊織さんが裸の桃菜と抱き合っている姿を見て、頭が真っ白になった。
そしてパニックになって携帯と財布だけを持ってマンションを飛び出してしまった。
桃菜に彼氏を取られたのは初めてではない。 けれどもあれほど冷静さを失い取り乱したのはこれが初めてだった。
自分が分からなくなる位泣きじゃくり、身を切り裂かれるような想いに駆られた。
今までだって傷ついてきたけれどなんだかんだいって平気だった。
いつか桃菜とめぐり合わせたら、この人も桃菜の事を好きになるんだろうなあ。と諦めに似た想いがいつも心のどこかにあったのだ。
あそこまで我を忘れて泣きじゃくってしまったのは、きっと私が伊織さんを信じかけていたからだ。
彼は他の人とは違う。 何を根拠にそんな事を思ってしまったのだろう。
「とりあえず、飲もう!」
明海は冷蔵庫から缶ビールや酎ハイを山のように取り出す。
つまみやポテチまで用意して
「いやあ…私、お酒は…」
そう断り目の前にあったお酒をやんわりとテーブルの端っこに寄せる。